Double Counting による Erdős–Ko–Rado 定理の証明
この記事は「好きな証明」アドベントカレンダー 日目の記事です.*1
何かを数えるとき,数え間違いを防ぐために,複数の方法で数えてみるというテクニックがありますよね.数学でもこれに似た手法が使われることがあり,同じ対象を 通りの方法で数えることにより,その数を通じた関係式を導く技法を Double Counting と呼びます.
たとえば,簡単な例として,非負の整数 に対して
という等式を示してみましょう.ここで, は とも書かれる二項係数で,「 個の異なる物から 個を選ぶ選び方の総数」に等しい値です.すると左辺は,その場合の数を,あり得る範囲のすべての に関して足し合わせたものになっています. の値が違えば同じ組合せが選ばれることも無いので,「 個の異なる物からいくつかを選ぶ選び方の総数」を漏れなくダブりなく数えた式になっています.一方右辺は,「 個の物それぞれに関して選ぶか選ばないか( 通り)を決めることと,選ぶ物の組合せを決めることは同じである」という視点で,同じ場合の数を漏れなくダブりなく数えた式です.したがって,等式の両辺は,同じ対象を異なる方法で数えた式であるので,その値は等しいということが言えます.
では,もう少し非自明な主張を導いてみましょう. 人の生徒が居るクラスの中で, 人のチームをいくつか作りたいという状況を考えます.ただし,任意に つのチームを選んだときに,架け橋となるような,両方に属する生徒が必ず 人は居るようにしたいとします.このとき,最大でいくつのチームを作ることができるでしょうか?
たとえば,どのチームにも属するような生徒を 人固定して,残りの 人から 人を選ぶすべての組合せでチームを作ることを考えると, 個のチームを作ることができます.もっと多くのチームを作る方法はあるでしょうか?実は,そのような方法は存在しません.
定理 (Erdős–Ko–Rado)*2 正の整数 が を満たすとし, を要素数 の集合とする. は の部分集合族 であって,以下の性質をともに満たすとする.
- 各 の要素数は である.
- 任意の の交わりは空でない.
このとき, が成り立つ.
証明 の要素を円形に並べた円順列は 通りあり(回転して一致するものは同一視します),各円順列では,「連続する 個の要素からなる の部分集合」が 通り(どちら回りに見るかを固定すると,始点の選び方が 通り)あります.以下では,あり得る円順列をすべて動かしたときに, の要素が として出現する回数の総数を Double Counting することで,定理の主張を示します.
まず,各 を固定したときに, が何回出現するかを考えてみましょう. の要素が連続していてほしいので,これらをひとまとめにしたブロックと,残りの 個の要素で円順列を作ってみます.並べるものが 個なので,その総数は 通りです.ブロックの中で の要素はどういう順番で並んでいてもよいので,それぞれに関して 通りずつ可能性があり,全体では 通りの円順列で が として出現することがわかります.これは のどの要素でも全く同じことなので,総数は となります.
次に,各円順列を固定したときに, のうち の要素がどれぐらい存在できるかを考えてみましょう.定理の つ目の条件から,もしある が として出現しているなら,他の の要素はそこからどちらかの向きに高々 個分ずらした部分にしか として存在できません.あり得る候補として, からそれぞれの向きに 個分ずらした をそれぞれ と書くことにしましょう.このとき,もし であったとすると, はそこからちょうど 個分ずれた位置にあり,逆向きにも 個分ずれているので, が成り立ちます.すなわち,各 について, と の高々一方しか に属せないため, のうち の要素となっているものは, を含めて高々 個しか無いことがわかります.これはどの円順列でも全く同じことで,あり得る円順列は 通りであったので,総数は高々 であることがわかります.
最後に,上の つの段落で Double Counting した対象は同じ(あり得る円順列をすべて動かしたときに, の要素が として出現する回数の総数)であったので,
という関係が得られ,これを変形すると
となり,定理の主張が示せました.(Q.E.D.)
本証明は,Katona (1972) による論文*3を参考にしています.
*1:この記事を書くために Hatena Blog を始めました.今後記事が増えるかどうかは未定です.
*2:P. Erdős, Chao Ko, R. Rado: Intersection theorem for system of finite sets. Quarterly Journal of Mathematics, Oxford Series, 12 (1961), pp. 313–320. (DOI: 10.1093/qmath/12.1.313)
*3:G. O. H. Katona: A simple proof of the Erdős–Chao Ko–Rado theorem. Journal of Combinatorial Theory, Series B, 13 (1972), pp. 183–184. (DOI: 10.1016/0095-8956(72)90054-8)